メール配信タイミング制御技術
電子メールは,今やビジネスに不可欠なツールとなっていますが,プログラム開発やプレゼンテーション資料作成,論文執筆などの作業に集中しているときの着信通知は,強制的に作業を切り替えさせることになるためオフィスワーカの認知負荷が増加し,結果として作業効率を低下させます[1].そこで,「割り込み拒否度推定技術」を用いて,今,その人に割り込んで良いかどうかを推定し,割り込んでも良さそうなタイミングを見計らってメールの着信を通知するのが,メールは新タイミング制御技術です[2].この技術を用いることで,集中して働いている時にはメールを保留しておき,仕事が一段落したタイミングで通知してくれる環境が実現されます.
ユーザ状況反映型メール配信制御システム
OutlookやThunderbirdなどのメールクライアントは,一定周期で新着メールの有無を問い合わせるコマンドをサーバに送信し,返ってきた応答が「新着あり」のときに,ポップアップダイアログなどを用いてユーザにメール着信を通知します.ユーザ状況反映型メール配信制御システムは,図1のようにプロキシサーバとして動作し,メールクライアントとサーバの間の通信を仲介します.そうして,「割り込み拒否度推定技術」によって推定された割り込み拒否度が高い間はサーバの応答を保留しておき,割り込み拒否度が低下したタイミングで応答を返すことによって,着信通知のタイミングを制御します.このような構成とすることで,これまで使っていたメールクライアントを変更することなく,メール配信制御システムを導入することが可能になります.
ただし,いつまでもメールが配信されないのでは,却ってチーム全体の作業効率が低下する可能性が懸念されます.そこで,メールの待機時間に応じて,配信条件を緩和するアルゴリズムを採用しています.また,メールを保留している間も,着信に気づく余地を残せるように,画面右下のタスクトレイ領域にアイコンを表示し,メール着信時には徐々に変色する機能を実装しています.
図1 ユーザ状況反映型メール配信制御システムの構成
メール配信タイミング制御の効果
上記のシステムを,配信タイミング制御ありとなしの2条件で,大学教員6名が3ヶ月間使用したときの結果が図2です.図2(a)は,メール着信通知の直前2分間にPC操作があった時間の割合を示しています.メール配信タイミング制御によって,PC操作が少ないタイミングでの通知が可能になったことが確認できます.図2(b)は,メール着信通知から,メールクライアントに遷移するまでの時間です.着信制御によって,行っていた作業を中断してメールを読むまでの時間が短くなっている様子が読み取れます.これは,認知科学の知見に従うと,作業の中断に伴って一時的に記憶しておくことが必要な情報が少ないため,遷移時間が短くなったものと解釈されます.すなわち,より集中していないタイミングでの着信通知が可能になったことを示す結果と考えることができます.
(a)
(b)
図2 メール配信タイミング制御の効果
このように,メール配信タイミング制御によって,よりオフィスワーカの作業を阻害しにくいメール着信通知が可能になります.緊急度の高いメールは優先的に通知するなど,よりきめ細やかな配信タイミングの制御が今後の課題です.また,作業への集中が求められる場面では,メールだけでなく電話による中断も大きな問題です.これらの外部からのコミュニケーション要求を,すべて受け付けて適切に調停してくれる電子秘書機能の実現が望まれます.
[1] D. D. Salvucci, N. A. Taatgen and J. P. Borst, Toward a Unified Theory of the Multitasking Continuum: From Concurrent Performance to Task Switching, Interruption, and Resumption, Proc. CHI '09, pp.1819-1828, 2009 .
[2] 小林,田中,青木,藤田,割り込み拒否度推定値に基づくメール着信通知制御システム,ヒューマンインタフェースシンポジウム'14,pp.393-396, 2014.