超臨場感テレワークを実現する技術:心理学的評価

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超臨場感テレワークシステムの心理学的評価

(図ゼロ番)悩む人.png 超臨場感テレワークシステムは,離れていても,一緒に働いているように感じられることを目指しています.これをどう評価したらよいでしょうか.
そのように感じられるかどうかはあくまで受け手,つまり人間側の感性に関わる問題であり,これに感性心理学的見地から取り組んでいます.具体的には,現在,システムに対する感性評価が可能である質問項目群,すなわち“評価セット”の策定を行っています.

評価セット策定と質的研究

 評価セット策定のその出発点は,質的研究から始まるといえます.質的研究とは簡潔にいって,インタビュー,観察記録,自由記述などを駆使して,研究対象や現象を,量的データでは得られないリアリティを持って詳細に記述すること,現象を説明しうるいくつかの概念を提示することだといえます[1].なお,質的研究と量的研究とは対立的な関係ではなく,一方が他方に取って代わる訳ではありませんが,質的データの収集から量的データの解析などの流れを簡潔に示すと以下の図のようになります.

図1質的から量的の流れ.png
図1.  質的データ収集から量的データ解析の流れ

メンタルモデル・アプローチと評価グリッド法

 私たちの研究では超臨場感テレワークシステムの感性評価を目指し,スタンダードな半構造化インタビューだけでなく,評価グリッド法やPAC分析など,メンタルモデル・アプローチを駆使して,評価セット策定へと取り組んでいます.メンタルモデル・アプローチは,個々人の単純・単発の印象や表現,評価だけではなく,それらが個人内ではどのように階層化されているのか,どのような基準が潜んでいるのかという点も含めて検討可能なように調査する手法といえます.なお,上記でふれたPAC分析とは,調査対象に関する心理的印象を自由連想してもらい,それら心理的印象相互の類似度を尋ねることによって,印象相互のまとまりを推定する方法です.
 現在,私たちの研究で特に取り組んでいる評価グリッド法について,もう少し詳しく説明しましょう.評価グリッド法は,評価対象がまだ開発プロセスにあるがゆえに大量データを必要とする量的研究ができない場合でも,現場の少数の開発関係者からの情報を丹念に集めこれを分析することによって,これから世の中に出ようとする開発中のものづくりに実践的に役立てることをねらいとして用いています.標準的な評価グリッド法では,インタビュー協力者に,互いに比較が可能な評価対象物を提示し,評価対象物の優れた点(オリジナル評価項目)を挙げてもらった上で,それに対してラダーリングを行って,ネットワーク図を描出します.
 中でもラダーリングという質問手法は特徴的です.研究者はこの手法を使い,評価間の因果関係を階層的に表現することを目指します.オリジナル評価項目から上位概念を導きだす
ことを「ラダーアップ」,下位概念を導き出すことを「ラダーダウン」といいます.「ラダー」とは「梯子」という意味です.図2は,テレワークシステムの比較において,“相手の顔が見えた方がより好ましい“と調査対象者が印象・評価を表出した場合のラダーリングの例です.すなわち,対象者によって表出された印象や評価について,ラダーアップしてその上位概念・ベネフィットを導出し,またはラダーダウンしてその下位概念・必要要件や機能を導出するということです.

図2ラダリング例テレワーク.png
図2. ラダーリングの例

 また,テレワークシステムに関する別の事例ですが,図3のような関係表が作成されます.赤枠の部分が,対象者からのはじめの表出・評価(オリジナル項目)であり,その右側がラダーアップされた表出,すなわちオリジナル項目はどの様なベネフィットにつながるかが示され,左側がラダーダウンされた表出,すなわちオリジナル項目のために必要と考えられる機能や要件が示されています.
 現在,このようにして得られた感性評価と上位概念(ベネフィット)を精査して,それを問う評価セットを策定中です.図3の例では,オリジナル項目の他に,上位概念にあたる「安心,落ち着く」「寂しくない」「一緒に仕事をしている感がある」などを評価項目の候補として挙げることができます.同時に,それらの評価を向上させると考えられる具体的機能(因果関係)を抽出し,開発中であるサブシステムのブラッシュアップに貢献します.  

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図3. 評価グリッド法による結果の例(一部)

[1]萱間真美著「質的研究実践ノート」,医学書院.2007
[2]讃井純一郎他共著「より良い環境創造のための環境心理調査手法入門」,技法堂出版.2000
[3]櫻井広幸“メンタルモデル・アプローチであるPAC分析を用いた,超臨場感テレワークコミュニケーションに関する面談” , 第15回日本テレワーク学会研究発表大会予稿集,2013
[4]櫻井広幸“超臨場感テレワークシステムに関するメンタルモデル・アプローチと評価グリッド法を用いた分析”,日本パーソナルコンピュータ利用技術学会予稿集,2013

メール配信タイミング制御技術
オフィスワークへの集中を邪魔しないタイミングでメールの着信を通知します.

擬音語・擬態語を用いた状況提示技術
過去から現在までの出来事を、漏らさず短時間で把握できるようになります.

超低演算量映像符号化技術
一般の符号化方式と比較して,1/2 ~ 1/10 の演算量で圧縮符号化ができる技術です.

超臨場感テレワークシステムの心理学的評価
超臨場感テレワークシステムを、感性心理学的に評価できるようにします.

実用空間共有技術
隣にいるような感覚で,共通の作業オブジェクトを見ながら協調作業できるようになります.

ハイパーインフォメーションターミナル
オフィスの様々な情報を容易に表示して共有することができるようになります.

擬音語・擬態語変換技術
オフィス内の音や人の動きを,瞬時に理解できるようになります.

割り込み拒否度推定技術
互いの仕事を邪魔することなく,必要なコミュニケーションを取ることができるうになります.

任意エリア収音技術
広いオフィスの中で,あるエリアの音だけを収音できるようになります.